経皮的僧帽弁接合不全
修復術

重症の僧帽弁閉鎖不全症の患者さんで、外科手術が困難とされていた方に対する新しい治療法です。

「経皮的僧帽弁接合不全修復術」は2018年4月より保険償還が得られたことで治療可能になりました

3分でわかる
経皮的僧帽弁接合不全修復術

経皮的僧帽弁接合不全修復術とは

日本で初めての低侵襲な僧帽弁閉鎖不全症の修復術で、アボット社が開発したマイトラクリップを利用して施術を行います。

2018年4月に保険償還が得られた事で、日本で治療が可能になりました。

欧州では2008年、米では2013年に承認を受け、 これまでに50か国以上で6万人以上の患者がマイトラクリップを用いた治療を受けています。

対象疾患

重症の「僧帽弁閉鎖不全症(MR)」が治療の対象です。

僧帽弁

僧帽弁とは

左心房と左心室の間にあり、前尖・後弁と呼ばれる二つの弁尖から成り立っています。

健康な心臓の僧帽弁

左心室が拡張、左心房が収縮する時に開いて、左心房から左心室へと血液を送り込み、また、左心室が収縮する時に閉じて、左心房へ血液が逆流しないように働きます。

健康な心臓の僧帽弁

僧帽弁閉鎖不全症の僧帽弁

僧帽弁閉鎖不全症には大きく分けて「器質性(一次性)MR」「機能性(二次性)MR」があります。

器質性(一次性)MR

僧帽弁の左心室側には僧帽弁の弁尖(前弁/後尖)と乳頭筋をつないでいるひものような腱索があり、それが何らかの原因で切れる、若しくは延長することで弁尖の接合不全が起きて血液が逆流してしまいます。

機能性(二次性)MR

何らかの原因(心筋梗塞など)によって心臓が拡大してしまうことで僧帽弁の弁輪が大きくなったり弁尖が下方に引っ張られてしまうことで接合不全が起き血液が逆流してしまいます。

僧帽弁閉鎖不全症(MR)の症状

  • 息切れ
  • 動悸
  • 疲労
  • めまい
  • むくみ
  • 尿量低下

僧帽弁閉鎖不全症は、初期は症状が現れにくいため、無症状のまま健康診断で見つかったり、 進行すると、息切れ、呼吸困難、むくみなどが現れます。

検査方法

心臓超音波検査
(心エコー図検査)

超音波検査器を使って心臓の形態、機能、血液の流れなどの評価を行います。

経胸壁心臓超音波検査
(経胸壁心エコー図検査)

横向きに寝た状態で、胸に超音波を出すプローブをあて、肋骨の間から心臓の状態を確認します。
僧帽弁閉鎖不全症の場合、弁尖の閉鎖不全により、血液の逆流がどれぐらいあるのかを確認します。
とくに痛みも無く、体の外側から超音波を使い行うので、簡単に行える検査の一つです。

負荷心エコー図検査
(ストレスエコー図検査)

運動負荷エコー図検査

自転車をこぎながら、心エコー図検査を行います。

※  運動することにより心臓に負荷をかけて、安静時には出ない症状やエコー所見を確認することができます。

経食道超音波検査
(経食道心エコー図検査)

横向きに寝た状態で口から直径1cmほどのプローブを食道に入れ、心臓の後側から超音波を使って検査します。
経胸壁心エコー図検査に比べ、肋骨や肺が邪魔にならないので、より綺麗に心臓の画像を確認することができるため、細かい形態、機能、血液の流れを確認することができます。

※ この検査は喉に麻酔をかけた状態で行い、必要に応じて静脈麻酔を併用する場合があります。

エコー医からの一言

心臓内科 大西 宏和
当院ではカテーテルを用いた大動脈弁植え込み術や心房中隔欠損閉鎖術などの治療に多数取り組んで参りましたが、この領域では心臓の構造を詳細に観察するために心エコーが大変重要な道具となります。
カテーテルを用いた僧帽弁逆流症の治療であるMitraClipは、心臓内でカテーテルを細かく操作しながら僧帽弁の一部をクリップで固定することを目指す治療ですので、 リアルタイムに詳しく経食道心エコー(胃カメラの要領で行う心エコー検査)で観察しながらカテーテルを僧帽弁へ安全かつ正確に導くことが求められます。
私は術前検査、及び術中の経食道心エコーを担当させて頂きます。
安全な検査・治療を最優先に考えながら、僧帽弁逆流をしっかり制御して患者様の症状を改善することを目指してMitraClipを成功へ導く助けとなれるようにサポート致します。
患者様を中心とした『ハートチーム』の一員として是非とも全力を尽くさせて頂きたいと思います。よろしくお願い致します。

僧帽弁閉鎖不全症/心不全の
治療方法

治療方法 経過観察または薬物療法 外科的治療 マイトラクリップ(MitraClip)
経皮的僧帽弁接合不全修復術
重症度 軽症~重症 重症 重症
治療内容
  • 軽症から中等度の僧帽弁閉鎖不全症で自覚症状もない場合は、特に治療をせずに経過観察を行います。
  • 僧帽弁逆流を緩和させるために薬を服用することもあります。
  • 外科的僧帽弁形成術
  • 外科的僧帽弁置換術
  • 僧帽弁の前尖と後尖をつなぎ合わせ、僧帽弁の逆流を減らす治療法です。
メリット
  • 体への負担が少ない治療法です。
  • 根治的治療方法
  • 直視下に病変を確認し、十分に処置を行うことができます。
  • 開胸手術が出来ない、又は手術リスクが高い方でも治療を受ける事ができます。
デメリット
  • 開胸手術の為、体への負担が大きくなります。
  • 全身麻酔、人工心肺が必要となります。
  • 僧帽弁の形状によっては手技ができない場合があります。
治療のリスク

僧帽弁形成術

僧帽弁形成術は、壊れた弁を修復する手術です。

経皮的僧帽弁接合不全修復術の対象となる患者さん

  • 75歳以上で心機能が低下している方
  • 過去に開胸手術の既往がある方
    (冠動脈バイパスグラフト術など)
  • 肺気腫など呼吸器疾患を合併している方
  • 肝硬変など肝疾患を合併している方
  • 頸動脈狭窄を合併している方
  • 胸部に放射線治療歴のある方
  • 1年以上の予後が期待出来る
    悪性腫瘍などの合併がある方

これまで、「僧帽弁閉鎖不全症」には、 心臓外科手術(僧帽弁形成術、置換術)が効果的な治療とされていました。

しかし、心臓外科手術が必要となった患者さんにおいて、手術リスクが高い場合 (高齢の方、心臓の手術を過去に行った事がある方、全身状態が良くない方、体力の低下を認める方)、 手術による治療を断念するケースが少なくありませんでした。

このような、心臓外科手術が困難な患者さんがマイトラクリップ(経皮的僧帽弁接合不全修復術)の対象となります。

マイトラクリップの利点

今までの手術に比べて身体への負担が少ない

マイトラクリップは胸を大きく切開することなく、また従来の外科的弁置換術のように心臓を停止させる必要がない(人工心肺を使用しない)ことから、患者さんの身体への負担が少ないのが特徴です。

外科手術が行えない、又は手術リスクが高い方

高齢者や心臓以外の合併症のため治療が行えないようなハイリスクの患者さんでも施行できます。

基本的に術中の輸血は不要

基本的に大きく切開することがありませんので、輸血を少量または無しでも施行することができます。

入院期間が短い

術後早期に離床可能であり、1週間程度の入院期間で治療が完了します。ただし、薬物調整やリハビリの為に入院が長くなることもあります。

心臓までアプローチする方法

マイトラクリップでは、大腿静脈アプローチを行います。

麻酔について

麻酔科医の協力のもとで、全身麻酔下で施術を行います。

麻酔科主任部長 金 信秀
MitraClipは足の付け根からカテーテルを挿入して治療しますので、通常の手術より患者さんの体への負担ははるかに小さいですが、麻酔は局所麻酔ではなく全身麻酔です。あえて負担の大きい全身麻酔となる主な理由は二つあります。MitraClipの操作は非常に繊細で、患者さんが術中に少しでも動くと大変危険ですので、全身麻酔で患者さんが全く動かない状態にする必要があります。また、MitraClipを留置する位置を正確に決めるために経食道心エコーという器械を使用しなければなりません。この器械を使用するときは、プローブと呼ばれる直径1 cmほどの長い管のようなものを口から食道まで入れます。起きているときにプローブを口から入れられるのは多くの患者さんにとってかなりつらいことですので、こちらも全身麻酔をかけた状態で行います。 MitraClipは基本的に外科手術が困難または不可能な患者さんが対象となる手技ですので、多くの方はご高齢であったり、他の様々なご病気があったりして、全身麻酔をかけることだけでも大変な場合が多いです。われわれ麻酔科医は、患者さんの血圧や心拍数、酸素の行き渡り具合、心臓の動きや弁の様子などを逐一観察しながら、それぞれの患者さんの時々刻々と変化する状態に応じて最適な薬剤の種類と量を選択し、MitraClip手技中の患者さんの安全を確保します。MitraClipを留置した直後に評価する際の血圧コントロールなど、スムーズで確実な手技のためには術者と麻酔科医の連携が欠かせませんが、経カテーテル大動脈弁治療や心房中隔欠損閉鎖術などで循環器内科医師と良好な信頼関係を築いてきたわれわれには、長い経験に基づいた自信があります。 MitraClip手術を受けられる患者さん全員の麻酔を、新東京病院麻酔科の主任部長である私が責任をもって担当致します。是非安心していらしてください。

心臓血管外科医からのコメント

副院長 兼 心臓血管外科主任部長
 中尾 達也
僧帽弁の逆流は、その発生由来によって2種類に分類されます。
①弁葉の変性や腱索断裂などの僧帽弁局所の形態的異常によるものと、②左室、乳頭筋、腱索を含む僧帽弁複合体の異常によるものです。
外科手術の耐術能に問題がある患者に対して、弁葉を直接治療する手段として、経カテーテル的に前尖と後尖の逸脱弁葉をクリップで挟むMitraClip法が本邦でも適応されるようになりました。 従来の外科的手法であるAlfieri法と同じ手法が経カテーテル的に可能になったことは、薬物療法の効果が乏しく重度心不全を繰り返している、さらに手術を受けるには高リスクな患者様にとっては朗報であるでしょう。
当院では現在の第一選択である外科的手術に加えて、本カテーテル治療もオプションとして検討することができます。治療後、将来的に弁輪や弁下部組織を含む左室形態がどのように変化するのか、心エコーなどで慎重にフォロー致します。

リハビリテーション

リハビリテーション科部長 
西 将則
当院のリハビリテーション部門は、急性期病院では画期的な365日体制を敷き、1日でも早い患者さまの回復をサポートしております。 また日本でも有数の心臓リハビリテーションの実績を誇ります。
MitraClipを実施する患者さまにおいては、全例リハビリテーションを提供します。 術前の身体機能や能力を把握した上で、術後翌日から積極的にリハビリテーションを開始し、速やかな回復と早期退院を目指します。 また、必要に応じ外来でのフォローアップを行い、生活能力の維持向上に努めます。

施行から退院までの流れ

STEP1
初診外来

これまでの病状および現在の症状などをうかがい、外来で心電図、胸部レントゲン、採血、心エコー検査などスクリーニング検査を行います。
重症僧帽弁閉鎖不全症の治療方法について全体的な説明をさせていただき、治療をご希望・ご検討される方は検査入院を予定させていただきます。

STEP2
検査入院

CT検査、呼吸機能検査、経食道心エコー検査など必要な精密検査を行い、 全身状態を複数の医師を含めハートチームメンバーで評価させていただき耐術能など総合評価を行います。
治療に対するご本人・ご家族のご希望もゆっくりとお話を伺います。

STEP3
ハートチームカンファレンス

検査入院で施行した各種検査の結果を踏まえて、最適な治療方針の決定をハートチームで行います。
マイトラクリップ、外科的手術、心臓再同期療法(CRT)、保存的加療(薬物治療)について検討し、患者さん毎に適切な治療を判断します。

STEP4
治療

万全の体制で治療に臨みます。一緒に頑張りましょう。

STEP5
術後の回復

術後3時間で飲水、翌日朝から食事やリハビリテーションが始まります。

STEP6
退院

術後数日での退院を目指しますが、しばらく薬物調整を行う場合があります。

私たちの取り組み

ハートチーム

マイトラクリップ治療を担うグループを「ハートチーム」と呼びます。
当院では、マイトラクリップ日本導入前から準備を行っており、心臓内科医、心臓血管外科医を中心に、麻酔科医、臨床工学技士、放射線技師、臨床検査技師、理学・作業療法士、看護師 等、 総勢20名でハートチームを結成しています。
メンバーは、ヨーロッパやアメリカでの臨床留学経験者を中心に、その経験や知識を集結させ、 また、担当する診療科の垣根を越え、患者さんに合う最適な治療方法やタイミングを選択・提供しています。
治療をした患者さんが 元気に歩いて帰ることができるよう、スタッフ一同 協力して治療を行っています。

ハートチーム

マイトラクリップ
代表医師からメッセージ

長沼 亨
心臓内科部長
卒大 / 卒年
山口大学 平成 16 年
専門領域
循環器一般、構造的心疾患(弁膜症、TAVI、心房中隔欠損閉鎖など)

MitraClip(マイトラクリップ)を用いた経皮的僧帽弁接合不全修復術は、私が2012年から2014年に留学していたイタリア、ミラノのSan Raffaele Scientific Instituteの心臓外科医Ottavio Alfieri先生が考案された「Alfieri edge to edge stitch」という外科的僧帽弁形成術を基に開発されたものです。
私の師匠である、カテーテルインターベンションの世界的権威として有名なAntonio Colombo先生とその相棒であるAlfieri先生が参加されるハートチームカンファレンスに定期的に参加させて頂き、熱いディスカッションを目の当たりにしていました。今思い出してみても、学ぶことの多い、大変有意義な経験でした。
残念ながら、この分野では日本は欧米に大きく後れを取っていますが、手先の器用な日本人の技術力をもって、より質の高い治療を日本の患者様に提供できるよう精進してまいります。

新東京病院ハートチームからの
メッセージ

日本での経皮的僧帽弁接合不全修復術は2018年4月より始まったばかりですが、十分に蓄積された欧米のデータを活かし、安定した治療成績を残せるよう努めています。
また、新しい情報へのアクセスを継続し、治療に関する情報を 全国に発信し続けていきます。

心臓疾患の治療に留まらず、術後の生活基盤の構築、術後のリハビリ、ケアを含め、包括的に患者さんの将来をサポートしていきたいと考えています。
弁膜症外来にて 診療相談を行っていますので、紹介状なしでも お気軽に受診・相談ください。

よくあるご質問

Q. 希望すれば経皮的僧帽弁接合不全修復術を受けることができますか?
A. 患者さんの希望だけでは、経皮的僧帽弁接合不全修復術を行うことはできません。
現在、僧帽弁閉鎖不全症の標準的治療は心臓外科手術(僧帽弁形成術、置換術)ですが、この手術が必要であるにも関わらず、 手術リスクが高い患者さん(高齢の方、心臓の手術を過去に行った事がある方、全身状態が良くない方、体力の低下を認める方)が、経皮的僧帽弁接合不全修復術の対象となります。
経皮的僧帽弁接合不全修復術の必要性につきましては、当院のハートチームが判断いたします。
Q. 経皮的僧帽弁接合不全修復術が受けられないのはどのような場合ですか?
A. 解剖学的にマイトラクリップが適応にならない患者さん、併発する病気のため余命が長くないと考えられる患者さんは、現在、経皮的僧帽弁接合不全修復術を受けられません。
Q. 治療による痛みはありますか?
A. 手術中は全身麻酔を行い患者さんが苦痛を感じることの無いよう、適切に管理いたします。
術後に足の付け根が痛むことはありますが、鎮痛薬を用いて最小限にするよう心がけています。
Q. どのような合併症がありますか?
A. 下記のような合併症があります。
クリップの脱落・塞栓 僧帽弁の前尖と後尖を把持したクリップがはずれてしまい、心臓や血管の中を通って他の部位に飛んで行ってしまいます。
片弁尖把持 把持したクリップの片側が弁尖からはずれてしまい、片方の弁尖にのみ、くっ付いた状態となります。これでは逆流が制御できません。
医原性心房中隔欠損症 このカテーテル治療では、右心房から左心房に治療器具を進める為に、心房中隔を穿刺する必要があります。この孔が自然閉鎖せずに残存し、心臓に負担がかかることがあります。
僧帽弁狭窄症 閉じにくくなった僧帽弁をつなぎ合わせる治療ですので、逆に弁が開きにくくなり、狭窄を来たす場合があります。術中に経食道心エコーを用いて、狭窄が許容できる程度かどうかを確認します。
血栓症、塞栓症 カテーテル、クリップなど異物を体内に挿入すると、血栓が形成され、脳梗塞や肺塞栓の原因となることがあります。
心タンポナーデ カテーテルが心臓を損傷し、心臓の周りに貯留した血液により心臓の拡張が悪くなり、血圧が低下することがあります。
穿刺部の出血 手術終了後、カテーテルやシースを抜去した際に血腫が生じることがあります。
Q. 入院期間はどのくらいですか?
A. 順調に経過した場合には、経皮的僧帽弁接合不全修復術後一週間以内に退院されることが多いです。
ただし、患者さんによってはリハビリや薬物調整が必要なこともあります。
当院では経皮的僧帽弁接合不全修復術を受ける患者さん全員について前後にリハビリ専門チームが介入して、患者さんごとに適切なリハビリプランを立てています。

診療案内

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受付・診療時間

月曜日~土曜日(日曜・祝日は除く)
午前 診察 9時00分~ (受付 8時00分 ~ 11時30分)
午後 診察 14時00分~ (受付 13時30分 ~ 16時00分)

長沼医師 診察日

月曜日:午後/木曜日:午前

お電話での相談

受付時間:月曜日~土曜日
(9時00分~17時00分)
担当:心臓内科秘書 大野

*都合により不在となる場合もございますが、
何卒ご了承下さい

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