腹腔鏡下胆嚢摘出術

専門性の高い肝胆膵疾患に対する手術の中で、腹腔鏡下胆嚢摘出術は、唯一専門施設以外でも数多く行われている手術です。難易度の高い手術ではありませんが、胆嚢炎の患者さんや開腹手術の既往のある患者さんに対する手術の際には高度な技術を要する場合があります。当科では胆道疾患(特に胆道癌)に関する豊富な専門的知識と経験をもとに、安全で確実な腹腔鏡下胆嚢摘出術を行っています。私たちが確立した標準的手術手技は国際診療ガイドライン等にも採用され、国内外に広く普及しています。

当院では上腹部手術の既往や炎症の有無などに関わらず、すべての良性胆嚢疾患を腹腔鏡下胆嚢摘出術の適応としています。また、手術中に胆嚢癌が判明した場合を除き、開腹手術へ移行することはほとんどありません。他施設では手術前に腹腔鏡下胆嚢摘出術が不可能と診断された場合でも、当院では可能な場合があります。一度当院にご相談にいらして下さい。

1. 胆嚢について

肝臓にはいくつかの重要な働きがありますが、その中に胆汁を作る働きがあります。胆汁は肝臓を出ると胆管を通って十二指腸へと流れていきます。十二指腸内で食物と混ざり合い、食物中に含まれる脂肪分の消化を補助します(消化とは栄養素が吸収されやすいよう分解すること)。胃や十二指腸に食物がなければ、胆汁は無駄にならないよう胆嚢内に貯留します。そして、胃内に食物がたまると胆嚢は収縮し、効率的に胆汁が流れる仕組みになっています。

2. 胆嚢の病気について

胆石症

何らかの原因により胆嚢の収縮機能が低下すると、胆嚢内に胆汁がうっ滞して濃縮されるため、泥→砂→石と固形化することがあります。こうしてできた固形物を胆石と呼びます。胆石は、何らかの症状(胆石発作;上腹部や背部の痛み・吐き気など)がある場合に手術の適応となります。胆石があっても無症状の場合は経過観察とするのが標準的な考え方ですが(注1)、胆嚢癌の合併が疑われる場合には、たとえ無症状でも手術をお勧めすることがあります(注2)。

(注1)無症状で経過している胆石が何らかの症状を発現する確率は、1年に1~4%ずつで20年間では10~30%と言われています。つまり、胆石があっても大半の方が何年も無症状のまま過ごされるようです。ただし、胆石が原因で高熱や激痛を伴う急性胆嚢炎を引き起こしたり、総胆管に石が流れ落ちて総胆管結石になることがあります。総胆管結石は胆管炎や膵炎を合併することがあり、これらは生命に危険を及ぼすこともあります。
(注2)胆嚢癌になった胆嚢の中にはしばしば胆石が含まれています。しかし、これまでの調査や研究では胆石が癌の発生率を明らかに上昇させるということは証明されていません。

急性胆嚢炎

おもに胆石が原因で胆嚢に急性の炎症が起こった状態です。急激な炎症により発症し、強い症状(腹痛・発熱・嘔気・嘔吐など)を伴います。また、何らかの重症疾患により食事を摂取していない患者さんでは胆石が無くても胆嚢の動きが悪いために急性胆嚢炎を起こすことがあります。急性胆嚢炎は重症化すると命に関わることもあります。

慢性胆嚢炎

軽症から重症までさまざまな急性胆嚢炎を繰り返した後に、炎症性変化により胆嚢の壁が厚く硬くなった状態で、胆嚢の拡張・収縮機能の低下を来します。慢性胆嚢炎は胆嚢癌との鑑別が重要です。一般的に慢性胆嚢炎と胆嚢癌の鑑別はエコー検査やCT検査を用いて行われますが、胆嚢癌ではないことを十分に確認できない場合には手術により切除した実物によって判断する必要があります。また、慢性胆嚢炎を長期間放置すると、周囲の臓器(胃・十二指腸・大腸など)との癒着のために大がかりな手術を要することがあります。

胆嚢ポリープ

胆嚢内にできる良性腫瘍ですが、大きさが1cm以上の場合や増大傾向を認める場合には悪性(胆嚢癌)である可能性が若干高くなります。そのため、これらは手術により切除した実物によって判断する必要があります。一方で、大きさ5mm以下の小さなポリープやコレステロールポリープ(胆汁に含まれるコレステロールの沈着によりできるもの)は3~6ヶ月毎の経過観察でよく、急いで手術をする必要はありません。

胆嚢腺筋(腫)症(アデノミオマトーシス)

胆嚢の壁を構成する粘膜と筋層の一部に厚みのある部分が形成されるもので腫瘍性病変(癌やポリープ)ではありません。しかし、エコー検査やCT検査で指摘される胆嚢壁の厚みは腫瘍性病変との鑑別が必要です。エコー検査やCT検査だけでは腫瘍性病変との十分な鑑別ができない場合には手術により切除した実物によって判断する必要があります。また、胆嚢腺筋症は胆嚢の収縮機能をくるわせるため、胆汁の停滞により胆石を形成したり、胆石が無くても胆嚢の異常収縮による痙攣発作(上腹部や背部の痛み・吐き気などの症状)の原因となったりします。胆石合併の有無に関わらず症状がある場合には手術の適応となることがあります。

胆嚢癌

胆嚢内にできる悪性腫瘍です。進行した胆嚢癌は予後不良で、うまく切除できた場合でも再発率が高いのですが、早期胆嚢癌は比較的予後良好で、切除により完全治癒が期待できます。胆嚢癌に対する標準的な手術は、できるだけ取り残しの無いよう周囲のリンパ節や肝臓の一部を含めた切除を開腹手術で行います。当院では、胆嚢癌であることが明らかな場合や胆嚢癌の可能性が高い場合には、胆嚢癌に対する標準的手術を第一にお勧めしております。ただし、一部の早期胆嚢癌は胆嚢のみ摘出すれば十分な場合もあり、ご本人の希望がある場合や高齢で腹腔鏡下手術による体力温存の利点が大きい場合などは、相対的な適応として腹腔鏡下胆嚢摘出術を行うことがあります。その他、胆石症等の良性疾患の診断で腹腔鏡下胆嚢摘出術を行った後に病理検査で胆嚢癌が見つかった場合には、改めて追加手術をお勧めすることがありますが、明らかに早期癌であれば追加の手術を行わずに厳重な定期検査を行って経過を見ることをお勧めすることもあります。

3、手術について

当センターでは上腹部手術の既往や炎症の有無などに関わらず、すべての良性胆嚢疾患を腹腔鏡下胆嚢摘出術の適応としています。

手術は全身麻酔下に行います。はじめに臍に約1cmの小孔を開け、小開腹します。そこから炭酸ガスを送気し、お腹をドーム状に膨らませます。スコープを挿入し、内部を観察します。引き続き1cm大の穴を3ヶ所開け、そこからスコープや鉛子を挿入し、モニターを見ながら手術を行います。

胆嚢管と胆嚢動脈を確認し、クリップをかけて切離し、胆嚢を肝臓から剥がして臍の穴から摘出します。摘出後、穴を縫い閉じて、手術は終了です。穴は数カ月以内に吸収される糸で内側から縫いますので抜糸は要りません。手術時間は、胆石症に対する手術で通常1時間~1時間半、急性胆嚢炎に対する手術で1時間~2時間です。

4、外来受診から手術までの流れ

1:初診(駅前クリニック)

診察の後、病状の精密検査のため、採血検査、超音波検査、MRI検査を行います。他院からの紹介状や検査資料があれば、当院での再検査が不要になるものもありますのでお持ちください。診察、検査の結果、手術が必要と判断された場合、手術を安全に行うための術前検査を行います(追加の採血検査、心電図検査、肺機能検査、レントゲン検査など)。検査に問題なければ入院期間の説明や入院案内を行います。

2:手術日の決定

症状や混雑具合にもよりますが、通常、術前の検査結果が出た後2-3週間以内に手術可能となっております。症状が切迫していない場合には、ご都合に応じて数か月後の手術を予約することも可能です。手術日は決定次第電話でご連絡させていただきます。

3:入院(和名ヶ谷本院)

原則的に手術前日に入院していただきます。入院後は手術の最終説明、全身麻酔の説明、その他病棟での過ごし方などについて説明させていただきます。

4:手術当日

朝から絶食になります。もともとの内服薬は継続する場合と、中止する場合があります。手術は全身麻酔で行います。手術時間は通常、1時間~1時間半程度になります。麻酔の導入、覚醒の時間がありますので、手術室での滞在時間は1時間半~2時間半程度になります。

5:術後の経過

手術後、麻酔がさめて意識がおおよそ戻った状態で病室に帰ってきます。麻酔は翌日の朝にはほぼ完全に覚めます。麻酔を予定通りにさますことができた場合には、術翌日朝から水を飲み、昼から食事を始めます。術後2日目からシャワー浴が可能になります。術後2~3日目に退院となります。退院時の状況は、自宅で手術前と同じ様な食事をとって散歩や家事が可能な状態です。通常は退院後1~2週間で重労働以外の仕事は可能になります。それぞれの患者様方のもともとの状態にもよりますが、約1ヶ月後には手術前とほぼ同じくらいの体力に回復できる見込みです。

5、手術によって期待しうる効果と胆嚢喪失による問題点

胆石症の場合、旧石ができる原因である胆嚢を摘出しますので、術後は旧石による症状(上腹部や背部の痛み、嘔気など)や、胆嚢炎の心配がなくなります。まれに痛みの原因が別にあって(消化性潰瘍・胆道ジスキネジアなど)、術後も症 状が改善しないことがあります。胆嚢ポリープの場合、ポリープは完全に切除されますし、胆嚢自体がなくなるので胆嚢 ポリープ(良性)の再発の心配はありません。

胆嚢は胆汁の流れを調節する働きを持っているので、胆嚢がなくなると消化吸収障害が起こることが懸念されます。症状としては、下痢や便秘、腹部膨満感などが考えられます。その他、空腹時に胆汁が胃内~食道へ逆流することによっ て起こる胸やけや苦水があがるといった症状が考えられます。しかし、胆嚢だけが胆汁の流れを調節しているのではなく、周囲の臓器も協調して働いていますので、胆嚢切除後も周囲の臓器が代償することによって症状が出ないことが多いようです。さらに、胆嚢結石ができる方はもともと胆嚢の働きが悪いことが多いので、胆嚢喪失による症状はほとんどないと考えられています。

6、当院における胆嚢摘出術の成績

2018年10月~2019年6月の期間に、当院では胆嚢摘出術を115例施行しました。そのうち、開腹移行となった症例は術中所見で胆嚢癌を疑う所見を認めた1例および、胆石によって胆嚢と胆管に巨大な瘻孔を形成しており開腹下での胆管切断と胆管空腸吻合(胆管と小腸をつなぎ合わせる手術)が必要と判断した1例のみで、予想外の出血や癒着などを理由に開腹移行した症例はありません。

7、代替手段とその効果、副作用について

以下に胆石症の主な治療法について列挙します。

治療法 治療期間 効果(胆石消失率) 短所 長所
経過観察   消失しない いつ痛むかは予測不能。 無症状で、胆嚢機能良好な場合によい。
経口胆石溶解剤
(ウルソ)
6~12ヵ月
(入院不要)
6.4% 胃痛、下痢(まれ)。
再発の可能性がある。
治療期間が長い。
胆嚢が温存される。
体外衝撃波胆石破砕 3~12ヵ月
(入院不要)
症例を絞って20~40% 痛み(まれ)。
再発の可能性がある。
治療期間が長い。
胆嚢が温存される。
症例によっては効果高い。
腹腔鏡下胆嚢摘出術 約5日間 100% 入院、全身麻酔が必要。
胆嚢がなくなる。
短期間で確実な効果が得られる。
開腹胆嚢摘出術 約10日間 100% 傷が大きい。
術後食事開始まで数日を要する。
短期間で確実な効果が得られる(腹腔鏡下手術と同じ)。

8、予約案内

当院では、火曜日に“胆嚢専門外来”を開設し、診療を行っております。午前、午後ともに行っており、ご希望の時間に受診が可能となっております。火曜日以外でも診療を受け付けておりますので、まずはご連絡ください。

お問い合わせ

新東京病院 消化器外科外来
電話:047-711-8700(代)

腹腔鏡下胆嚢摘出術責任者
本田 五郎 (消化器外科主任部長 消化器がん腹腔鏡・ロボット手術センター副センター長)

関連する資格等

日本内視鏡外科学会評議員・技術認定医・技術認定審査委員 (肝臓班長)・学会誌編集委員・教育委員、日本肝胆膵外科学会評議員・高度技能指導医、日本胆道学会指導医など

本田医師が提唱したSS-inner(エスエスインナー)理論は、腹腔鏡下胆嚢摘出(通称:ラパコレ)を安全に行うための要点を系統的かつ論理的にまとめたものです。SS-inner理論に基づいて胆嚢壁の外科解剖を理解することで、安全な標準手術手技を繰り返し行うことができます。また、胆嚢摘出術の際にしばしば合併症の原因となる胆管の走行異常に対して適切な対処を行うことができます。SS-inner理論はすでに国内外の多くの外科医に受の外科医が集まるさまざまな学会や研究会に招致されて、SS-inner理論を啓蒙するためレクチャーを行っています。新東京病院では、すべての外け入れられており、本田医師は国内外科スタッフが、このSS-inner理論に従って安全な腹腔鏡下胆嚢摘出術を行っています。

腹腔鏡下胆嚢摘出術に関するおもな論文
胆嚢炎症例における胆嚢床剥離のコツ. 手術 62(3). 331-336.2008
腹腔鏡下胆嚢摘出術前の胆道検査による胆道走行異常のスクリーニングの有用性と対処法の検討. 胆道 26(5), 663667, 2012
早期胆嚢癌に対する腹腔鏡下胆嚢全層切除のコツとその剥離層の組織学的検討. 胆道 27(4), 705-711, 2013
胆嚢癌に対する腹腔鏡下胆嚢全層切除-剥離層の組織学的検討―.胆と膵 36(1), 47-50, 2015
ラパコレを見直す 3. 層を意識したラパコレ.消化器外科, 38(8):1151-1159, 2015
安全な胆嚢摘出術を理解するための胆嚢壁構造の局所解剖-SS-Inner layer. 手術, 71(4):663-671, 2017
胆嚢摘出術, 胆嚢摘出術, 臨床外科72(11):222-226, 2017
胆嚢摘出に必要な局所解剖, 臨床外科, 74(2): 162-166, 2019
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Honda G, Iwasaki K, Matsumuraa H, Kurata M, Matsumoto H, Horiguchi S, Katoh I. Through which layer, between the gallbladder and the liver, does the deep branch of the cystic artery run? Asian J Endosc Surg 3: 192-195, 2010 Kurata M, Honda G, Okuda Y, Kobayashi S, Sakamoto K, Iwasaki S, Chiba K, Tabata T, Kuruma S, Kamisawa T: Preoperative detection and handling of aberrant right posterior sectoral hepatic duct during laparoscopic cholecystectomy. J Hepatobiliary Pancreat Sci, 22:558-562, 2015.
Honda G, Hasegawa H, Umezawa A. Universal safe procedure of laparoscopic cholecystectomy standardized by exposing the inner layer of the subserosal layer (with video). J Hepatobiliary Pancreat Sci 23:E14-E19, 2016.
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zakzak by 夕刊フジ に掲載された本田先生の記事です。