内視鏡治療(大腸ESD)について

早期悪性腫瘍大腸粘膜下層剥離術 大腸ESD

大腸腫瘍は腫瘍全体の中でも増加傾向にあり、欧米諸国と比べても日本は顕著な増加傾向にあります。現在大腸癌は、癌死亡原因・男性第3位、女性第1位となっていますが、顕著な増加傾向を考慮いたしますといずれ男女の癌死亡原因として第1位になることが推測されています。

内視鏡検査の発展に伴い以前と比べ早期の段階で大腸癌が発見されることも多々見受けられてきています。当科としましては、早期で発見された患者さんに対してより安全でより確かな治療を提供できるように主任部長の原田医師を中心に日々大腸診療に取り組んでいます。

当科では年間100件以上の大腸ESDを行っています(2017年度全国ランキング34位、千葉県ランキング2位)。2017年に施行した大腸ESD 134例中の合併症率は、穿孔 0% (0件)、術後出血 3.0% (4件)でした。その他大きな合併症はありませんでした。一括切除率は、97.8%(131/134)、治癒切除率は、94.8%(127/134)となっており、他の先進的な施設と比べても遜色のない治療結果でした。

また当科では抗血栓薬を内服されている患者さんの治療を数多く手掛けています。基本的には抗血栓薬を内服されている方は、血栓症のリスクがあるため抗血栓薬を飲み続けて治療を行っています。他院で抗血栓薬を内服しているため治療が難しいと診断された方に関しても一度外来にてご相談してください。

当科における早期悪性腫瘍大腸粘膜下層剥離術(大腸ESD)への取り組み

原田医師

主施行医新東京病院 消化器内科主任部長 原田 英明

大腸ESDの適応病変

近年、下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)の普及や内視鏡スコープの進歩により早期大腸癌の早期発見が可能となり、とくに従来発見が困難であった扁平あるいは平坦陥凹型のいわゆる側方進展型腫瘍(LST;laterally spreading tumor)の発見が増加しています(図1)。LST病変は、腫瘍径が2㎝以上となるとスネアーを使用した内視鏡的粘膜切除術 (EMR;endoscopic mucosal resection) での一括切除が困難となることがあり、腫瘍の遺残や再発の問題が認められました。

大腸ESDのメリット

内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD;endoscopic submucosal dissection)は、腫瘍径に関わらず腫瘍の一括切除が可能であり、従来の内視鏡治療では切除困難であった腫瘍に対しても内視鏡での低侵襲な治療が可能となってきました。特に腫瘍径が2㎝以上のLST病変に対して広く適応されています(図1)[1]。当院においては、2㎝以上のLST病変、2㎝以下でEMRの困難な陥凹性病変、EMR後の再発病変、炎症性腸疾患に伴う病変などに対して大腸ESDを行っています。

図1: 直腸LST病変

当科では、安定した大腸ESD治療を患者さんに提供するためいくつかの工夫をしています。

水浸下での大腸内視鏡的粘膜下層剥離術(WP-ESD法)

当院での大腸ESDの工夫としては、安全に治療を行う目的で水浸下での治療であるWP-ESD法(Water-pocket endoscopic submucosal dissection法)でESDを行っています[2]。

当院で行っているWP-ESD法は、粘膜下pocketを作成し[3]、pocket内にスコープを進め、間欠的に生理食塩水を注水して水浸下で剥離を施行します(図3-1)。

通常のESDでは二酸化炭素などの送気下で行われますが、送気下で電気メスを使用すると煙の発生による内視鏡画面の視認性低下や送気による腸管の膨張などのデメリットがあります。 一方、水浸下でのESDでは電気メスによる煙の発生抑制効果、内視鏡画面の視認性向上などのメリットがあります。 また水浸下での剥離は、粘膜下層にtraction(牽引)がかかり視野が良好となることで剥離ラインが明確になり(図3-2)、筋層への過剰な焼灼を予防することができるとされています[4]。一方通常のESDの場合、粘膜下層の局注剤が周囲に流出し局注剤によるtraction(牽引)が消失することがあり、治療時間の延長や合併症につながる恐れがあり得ます(図3-3)。

水浸下でのESDは通常大量の生理食塩水で腸管を満たす必要がありましたが、我々が考案したWP-ESD法では一回の治療で200ml程度の生理食塩水を使用し治療が行えます。現在までに100例以上の患者さんに治療を行ってきましたが、大きな合併症もなく良好な治療結果を得られています。

  • 図3-1: WP-ESD法
  • 図3-2: WP-ESD法
  • 図3-3: 通常のESD

術後合併症に対する対策

当院では大腸ESD術後合併症予防目的にクリップ閉鎖可能な症例に対してクリップ閉鎖を行っています。

大腸ESD後の切除後潰瘍底は基本的には剥き出しの状態で術後経過を見ます(図4)。 粘膜が欠損した状態の潰瘍底に直接糞便や便汁が曝されるため術後の腹痛や発熱の原因の一つになると言われています[5]。 当科で施行した大腸ESD後の術後潰瘍底に対してクリップ閉鎖を行った群と行わなかった群との2群に分けて術後合併症に関して比較検討したところクリップ閉鎖群は非閉鎖群と比べ術後合併症が低いことが判明しました (閉鎖群の合併症率7.3% [9/123] vs. 非閉鎖群の合併症率22.7% [20/88]; P < 0.001) [6]。 大腸ESD後の術後潰瘍底に対するクリップ閉鎖は術後合併症を低減させることが示唆されたため、当院では大腸ESD後に術後合併症予防目的にクリッピングによる術後潰瘍底の閉鎖を行っています。 クリップ閉鎖術は入院期間の短縮にも貢献するのではないかと考えています。

図4: 大腸ESD後クリップ閉鎖術

  • 切除後潰瘍底
  • クリッピング
  • 縫縮途中
  • 縫縮終了
  • 切除検体

REFERENCES

  1. Tanaka S, Oka S, Chayama K. Colorectal endoscopic submucosal dissection: present status and future perspective, including its differentiation from endoscopic mucosal resection. J Gastroenterol 2008; 43: 641-651.
  2. Harada H, Murakami D, Suehiro S, et al. Water-pocket endoscopic submucosal dissection for superficial gastric neoplasms. Gastrointest. Endosc. (In press)
  3. Hayashi Y. Sunada K. Takahashi H, et al. Pocket-creation method of endoscopic submucosal dissection to achieve en bloc resection of giant colorectal subpedunculated neoplastic lesions. Endoscopy 2014; 46: (Suppl. 01): E421–422.
  4. Akasaka T, Takeuchi Y, Uedo N, et al. “Underwater” endoscopic submucosal dissection for superficial esophageal neoplasms. Gastrointest Endosc 2017;85:251-2.
  5. Zhang QS, Han B, Xu JH, et al. Clip closure of defect after endoscopic resection in patients with larger colorectal tumors decreased the adverse events. Gastrointest Endosc 2015; 82: 904–909.
  6. Harada H, Suehiro S, Murakami D, et al. Clinical impact of prophylactic clip closure of mucosal defects for adverse events after colorectal endoscopic submucosal dissection. Endosc Int Open. Accept on 1 Aug 2017.

当院における大腸ESD入院治療の流れ

大腸ESDの最初の外来から入院・退院、退院以降の外来の流れについて説明します

外来

火曜日午前8時~11時までに大腸腫瘍の治療目的で紹介状をお持ちになった患者さんは、当日に必ず大腸ESD専門外来(駅前クリニック)で診察を行うようにしています。
なるべく当日中に必要な検査を行い、治療日程をその日に決めるようにしています。
患者さんによっては、より詳しい検査が必要になることもあります。
その場合は、検査日を決めて再度検査に来ていただくこともありますので、何卒ご理解頂きたいと思います。

入院

大腸ESD専門外来(駅前クリニック)にて入院日および治療日を決定します。
入院に関しては担当の看護師から詳しい説明があります。入院は和名ヶ谷にある本院にお越しください。

治療当日

前日より大腸内をクリーンな状態にしてもらうために特別食および眠前に軽い下剤をかけてもらいます。
当日は、大腸前処置用の洗腸剤を飲んでもらい大腸内をクリーンにします。
大腸前処置後に治療内視鏡室に移動してもらいます(治療の時間帯は、他の患者さんの治療の流れにより前後することがあります)。
治療中は、静脈麻酔剤を使用しますので意識はほとんどありません(呼吸は自発呼吸となります)。

術後

術後は、一般病棟に戻ってもらいます。 侵襲が少ない病変を治療された患者さんでは、その日から飲水は可能となります。 大きい病変や合併症の恐れのある患者さんでは手術当日は絶飲食となります。 手術翌日に腹痛や血便などが認められない場合には、昼頃から食事開始(全粥食)となります。 経過次第ですが、翌日ないし翌々日に退院となります(ほとんどの患者さんが2泊3日ないし3泊4日で退院されます。 全国平均の7.5日の入院期間に比べ短期間での入院となっています)。

退院後の外来

切除した病理検体の結果説明のため退院後2週間前後に大腸ESD専門外来(駅前クリニック)を受診して頂きます。
病理結果を説明し、いわゆる治癒切除の場合には当科外来もしくは紹介元の先生方と連携して今後の診療を継続していきます。
非治癒切除の場合には、追加外科切除などの治療が必要となります。
ESD適応となる患者さんは腹腔鏡での治療が可能である方がほとんどですので、当院の内視鏡外科での治療をお勧めしています。